ラジオの公定価格(昭和15年)
Official Price of Radio (1940)


目次

価格等統制令について

東京および大阪ラジオ工業組合の協定価格表

ラジオ受信機の最高販売価格指定

真空管規格外受信機自粛価格

参考文献

[注意] 公定価格表は、当時掲示することが求められ、ラジオ商の店頭に掲示されたり、カタログ、商報などに掲載された。
ここに掲載した一覧表は各社の卸商報(2)(3)や日本放送協会報(1)などに掲載されたものを再構成したものである。
原資料に誤植があったり表が縦書き二段で記述されたために真空管の正確な配列が理解しがたい点があった。
本稿では明白な原本の誤りはできるかぎり修正して掲載したが、真空管の配列については不明確なものも含まれる。

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価格等統制令(昭和14年勅令第703号)について

昭和14(1939年)10月20日、価格等統制令が施行された(勅令第703号)。この法令は、国家総動員法の規定に基づき、物価を同年9月18日(指定期日)における額を超えることを禁じたものである(第1条)。
この価格を「停止価格」という。

価格等の支払い者または受領者に於いて行政官庁の許可を受けた場合は停止価格と異なる価格を設定することができた(第2条)。商工農業者などの組合は、停止価格に代わる額を定めて行政官庁の認可を受けることで、その価格を指定期日の価格とみなすことができた。この場合、同一地域内の組合員以外の同じ資格を有する業者にも同じ価格が適用された。
この価格を「協定価格」という。

これに対して、行政官庁が閣令によって定めた価格を「公定価格」と呼び、停止価格、協定価格に優先して適用された(第7条)。当初停止価格が適用され、組合等の協定価格が定められ、順次各官庁が定めた公定価格に置きかえれ、価格統制が強化されていった。これらの価格は価格表示とともにその頭文字を丸で囲んだ記号を表示したことから、マル停、マル協、マル公と呼ばれた。

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東京および大阪ラジオ工業組合の協定価格表

ラジオ製造業者に対してもこの法令が適用され、各地のラジオ工業組合から申請された協定価格が認可を受けた。
東京および大阪ラジオ工業組合の価格を次にまとめた。実際には各ラジオ商組合ごとに別々の表として公表されている。
例に示した受信機は、できるだけ年代の合うものを示したが、この価格が適用される年代以外のものも含まれる

東京府告示第1014号(1940.9.3) 大阪府告示第1008号(1940.7.27)

名称 感度階級 真空管 級別 東京
製造業者
販売価格
大阪
製造業者
販売価格
備考
3球トランスレス 強電界級 12YR1-12ZP1-12XK1 1級
2級
26.00
23.50
26.00
23.40

東芝受信機41型
3球マグネチック 強電界級 57-12A-12F 1級
2級
なし 26.00
23.40
規格品となる
ナショナル特選三球
3球ダイナミック 強電界級 57-47B-12F 1級
2級
なし 48.00
42.00

コロムビアCR-140型
4球マグネチック 弱電界級 57-56-47B-12F 1級
2級
32.00
29.00
29.50
26.50
ウエーブ国策二号
4球電池式 弱電界級 32-32-33-12F 1級
2級
34.00
30.50
38.00
34.00
電池なし オーダF-400号
4球ペントード 弱電界級 58-57-47B-12F 1級
2級
45.00
40.00
45.00
40.00
規格品となる
ナショナル南進45号
4球トランスレス 弱電界級 12YV1-12YR1-12ZP1-24ZK2 1級
2級
45.00
40.50
45.00
40.00

東芝受信機51型
4球ダイナミック 微電界級 58-57-47B-12F 1級
2級
60.00
54.00
60.00
54.00
規格品となる
ナナオラN-14
4球ダイナミック 微電界級 58-57-2A5-80 1級
2級
67.00
60.50
67.00
60.00

ナショナルR-4D3型
5球マグネチック 弱電界級 58-57-56-12A-12F 1級
2級
なし 41.00
36.50
規格品となる
ナショナルR-5M
5球ダイナミック 微電界級 58-57-56-47B-12F 1級
2級
なし 68.00
61.00

ナショナル5D-1
5球ダイナミック 微電界級 58-58-57-2A5-80 1級
2級
90.00
81.00
なし 規格品となる
ビクターR-103型
5球スーパー 極微電界級 58-2A7-57-2A5-80 1級
2級
75.00
67.50
なし
ビクターR-106型
5球スーパー 極微電界級 58-2A7-2A6-2A5-80 1級
2級
なし 92.00
82.00
アリア275型
特殊5球スーパー 極微電界級 58-2A7-2B7-2A5-80 1級
2級
なし 115.00
100.00
シークSP20号
5球電池式スーパー 極微電界級 1B4-1C6B-1B4-1A4-33 1級
2級
63.00
56.50
なし 電池なし
5球電池式スーパー 極微電界級 35-134-33-109C-33 1級
2級
なし 90.00
80.00
5球交直両用 微電界級 32-2M3-30-33-12F 1級
2級
55.00
49.50
なし 乾電池付 オーダ制空弐号
6球マグネチック 微電界級 58-57-56-56-12A-12F 1級
2級
なし 63.00
56.00
6球交直両用 微電界級 32-30-56-30-33-12F 1級
2級
なし 61.00
54.00
オーダ報国100号
6球スーパー 極微電界級 58-2A7-58-2A6-2A5-80 1級
2級
なし 100.00
90.00
規格品となる
コロムビアCR-130-B型
7球スーパー 極微電界級 58-2A7-58-57-56-2A5-80 1級
2級
なし 130.00
115.00
特殊7球スーパー
グランド型
極微電界級 58-2A7-2B7-56-2A3-80-6G5 1級
2級
なし 150.00
135.00
電蓄?
特殊9球スーパー
グランド型
極微電界級 58-2A7-58-2B7-56-2A3-2A3-80-6G5 1級
2級
なし 250.00
235.00
電蓄?

1. この中で1級品とは次のメーカーの製品の事である。その他は2級品となる。

ブランド 製造会社名 ブランド 製造会社 ブランド 製造会社
クラウン 日本精器(株) キャラバン 原口無線電機(株) シャープ 早川金属工業(株)
エルマン 大洋無線電機(株) シーク (株)加藤工場 ヘルメス 大阪無線(株)
テレビアン 山中電機(株) メロデー 青電社 フタバ 二葉電機(株)
ナナオラ 七欧無線電気(株) ナショナル/シスター 松下無線(株)
アリア ミタカ電機(株) コンサートン タイガー電機(株)
オーダ 白山電池(合)
ウェーヴ 石川無線電機(株)

2.規格外品は2級品の8割以内(大阪は2級品以下)にて販売すべきものとする。
3.本銘柄品において他の真空管を代用したるときはその差額を差し引きするものとする。
4.本表価格は市内は買主店頭渡し価格とし、市外に移出する場合はその実費を加算することができる。
5.荷造り費は売主負担とする。ただし他府県に移出する場合は荷造り費の半額を加算することを得

この表からはさまざまなことが読み取れる。東京と大阪ではかなり申請したセットの形式が異なっている。特に2A3を使ったグランド形(たぶん電蓄)まで申請してしまっているところは驚きである。実際には1940年の奢侈品禁止令により、蓄音器の製造は1940(昭和15)年10月7日をもって禁止となった。この表はその直前に認可されたものである。トランスレス受信機は局型122号、123号が正式に発表される前のため、局型とはなっていない。特に3球式は東芝受信機をベースにしたもので、整流管が後の122号とは異なる。

この他に広島、岡山、島根のラジオ協同組合が認可を受けた価格が確認されているが、内容は大阪とほぼ同じもので、価格はやや高めである。
また、この1940年秋の段階ではコロムビア、ビクターが一級品に入っていないのと、後にトランスなどの専業となり、ラジオから撤退するシークが入っている点が興味深い。

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ラジオ受信機の最高販売価格指定

前項のようにラジオの形式は標準化とは程遠い状態だった。昭和15年(1940)12月6日の商工省告示によりラジオの種類が11種に規格化され、公定価格が定められた。昭和16(1941)年7月にはラジオキャビネット、昭和18(1943)年5月1日にラジオ用真空管、同年6月4日にラジオ用部品の公定価格が指定された。

例に示した受信機は、できるだけ年代の合うものを示したが、この価格が適用される年代以外のものも含まれる

昭和15年12月商工省告示第799号

種別 使用真空管 級別 製造業者
最高価格
卸売業者
最高価格
小売業者
最高価格
備考
3球マグネチック 57-12A-12F 1級品
2級品
23.20
21.00
24.60
22.30
29.50
26.70
再生検波
弱電界級

ナショナル特選三球
4球マグネチック 57-56-12A-12F 1級品
2級品
28.70
25.90
30.50
27.50
36.60
33.00
並四
弱電界級

ヘルメス57型
4球ペントード
マグネチック
58-57-47B-12F 1級品
2級品
41.20
37.20
43.75
39.50
52.60
47.50
高1
微電界級

ルモンド受信機
4球ダイナミック 58-57-47B-12F 1級品
2級品
57.70
52.00
61.30
55.25
73.70
66.40
高1
微電界級

キャラバンMD-8
4球電池式
マグネチック
32-30-30-33 1級品
2級品
33.20
30.00
36.25
31.85
42.30
38.20
高1
微電界級

オーダ報国D-30号
5球マグネチック 58-57-56-12A-12F 1級品
2級品
40.00
36.10
42.45
38.30
51.00
46.00
高1
微電界級

ナショナルR-5M
5球ダイナミック 58-58-57-2A5-80 1級品
2級品
82.20
74.10
87.30
78.70
105.00
94.60
高2
極微電界級

コロムビアCR-100型
5球スーパー
小型ダイナミック
2A7-58-57-47B-12F 1級品
2級品
66.00
59.50
70.10
63.20
84.20
75.90
極微電界級
ウェーヴ愛国号
5球オートトランス
ダイナミック
12YV1-12YV1-12YR1-
12ZP1-24ZK2
1級品
2級品
71.00
64.00
75.40
68.00
90.60
81.70
高2
微電界級

ビクター5A-10型
5球電池式
スーパー
マグネチック
167-1A6-167-167-169 1級品
2級品
54.00
48.70
57.35
51.70
68.90
62.10
非常用受信機
(電池無し)
極微電界級

ナショナル国民150号
6球交直両用
マグネチック
32-30-56-30-33-12F 1級品
2級品
52.00
46.90
55.20
49.80
66.30
59.80
国防受信機
(電池無し)
微電界級
フタバF600号
6球スーパー
ダイナミック
(注)
58-2A7-58-2A6-2A5-80 1級品 130.00 138.00 160.00 極微電界級
ビクター6R-75型
放送局型11号 57-47B-12F 1級品 24.00 25.50 30.70 中電界級
放送局型122号 12YR1-12ZP1-24ZK2
1級品 33.00 35.10 42.30 レス
弱電界級
放送局型123号 12YV1-12YR1-12ZP1-
24ZK2
1級品 45.00 47.80 57.60 レス
微電界級

(注)6球スーパーは1941.6.30追加(商工省告示第567号)

1. この中で1級品とは次のメーカーの製品の事である。コロムビア、ビクターは1940年12月6日追加

ブランド 製造会社名 ブランド 製造会社 ブランド 製造会社
ビクター 日本ビクター蓄音器(株) コロムビア (株)日本蓄音器商会 クラウン 日本精器(株)
エルマン 大洋無線電機(株) アリア ミタカ電機(株) ナナオラ 七欧無線電気(株)
テレビアン 山中電機(株) ウェーヴ 石川無線電機(株) メロデー 青電社
オーダ 白山電池(合) キャラバン 原口無線電機(株) ナショナル 松下無線(株)
シャープ 早川金属機工業(株) ヘルメス 大阪無線(株) コンサートン タイガー電機(株)
フタバ 二葉電機(株)

注)シーク(加藤工場)は1941年3月の時点でラジオから撤退したらしく、一級品一覧から外れている。


公定価格の規格品にはのようなラベルが貼られた(クラウン受信機、日本ラヂオ工業組合連合会の例)。

これ以外のメーカーの製品が2級品になる。  局型に2級品の項目がないのは局型受信機の製造許可が1級レベルの規模と設備を持ったメーカーに与えられたためである。  ただし、酒の等級と同じで必ずしも2級の質が悪いという事ではなく、通信機、高級品専門の小規模なメーカーは2級ということになってしまう。

2. 製品価格には電源コードおよびプラグを含む。

3. 1級メーカにしか認可されなかった局型受信機および高い技術が必要な6球スーパーには2級の設定は無い。
  6球スーパー受信機は放送協会認定品の価格とされた(1941年6月30日の商工省告示第569号にて追加)。
  1938年頃から、本来は安価な受信機を対象とした認定が、高級なスーパー受信機にも与えられるている。
  高級ラジオを公用に使うことが増え、協会認定が要求されるようになったためと思われるが、この制度により協会認定が必須となったのである。

4.  この公定価格は、これより高い真空管を使っても公定価格を越える価格設定は許されなかった。
  従って規格品より贅沢なラジオは作っても無駄という事になる。
  また、この表にある真空管より安いものを使ったときは公定価格から控除された。

5. 10ヶ月以上の月賦販売の場合は小売価格に1割5分上乗せすることが認められた。

6. 製造業者が小売業者に直接販売するときは製造業者価格(最高価格、以下同じ)、
  卸売業者が消費者に直接販売するときは小売価格を適用することになっていた。

7. 製造業者の出張販売所が卸売業者に直接販売するときは製造業者価格、
  小売業者に直接販売するときは卸売価格、卸売業者が消費者に直接販売するときは小売価格を適用することになっていた。

8. 製造業者価格および卸売価格には包装荷造費を含み、買主店先渡し価格とする。ただし、外地向けの場合は売主の最寄寄港船積渡価格とされていた。

9. 小売価格は売主店先渡し価格とされていた。

10. 本表価格は物品税を含む

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真空管規格外受信機自粛価格

公定価格表にある真空管より安いものを使ったときは公定価格から控除された。このため、規格品一覧にない低コストの旧型真空管(26B,24Bなど)を使ったラジオや、規格品と異なる真空管配列のラジオは「規格外受信機」と呼ばれて規格品の価格から真空管の差額を差し引いた公定価格で販売された。 真空管の品種削減という方針に反するためか、このような規格外受信機の価格について「自粛価格」と呼び、一覧表が発表された。この中には、最初に紹介したラジオ商組合の協定価格表に掲載されながら規格品にならなかったラジオも含まれている。

例に示した受信機は、できるだけ年代の合うものを示したが、この価格が適用される年代以外のものも含まれる

種類 感度階級 真空管 級別 製造業者
販売価格
卸売業者
販売価格
小売業者
販売価格
3球マグネチック 弱電界級 56-12A-12F 1級
2級
22.55
20.30
23.95
21.55
28.85
29.95

ナショナル特選三球
4球マグネチック 中電界級 57-26B-12A-12F 1級
2級
27.80
25.00
29.60
26.60
35.70
32.10

シャープK-10型
4球マグネチック 中電界級 24B-26B-12A-12F 1級
2級
27.50
24.75
29.30
26.40
35.40
31.85

ナショナル特選受信機
4球マグネチック 中電界級 24B-26B-47B-12F 1級
2級
28.70
25.85
30.50
27.25
36.60
32.90
4球マグネチック 中電界級 56-26B-12A-12F 1級
2級
27.20
24.50
29.00
26.10
35.10
31.60

シャープ明聴2号
4球マグネチック 中電界級 57-26B-47B-12F 1級
2級
28.40
25.55
30.20
27.20
36.30
32.75
4球マグネチック 中電界級 56-26B-26B-12F 1級
2級
27.10
24.40
28.90
26.00
35.00
31.50
4球マグネチック 弱電界級 57-56-47B-12F 1級
2級
28.70
25.85
30.50
27.45
36.60
32.90
アリアKS-100型
4球ペントード
マグネチック
微電界級 57-57-47B-12F 1級
2級
41.15
37.05
43.70
39.35
52.55
47.30
アリア 国策47号
4球ペントード
マグネチック
弱電界級 24B-24B-47B-12F 1級
2級
40.50
36.45
43.05
38.75
51.90
46.70

シャープ58型
4球電池式
マグネチック
微電界級 167-30-30-169 1級
2級
33.20
30.00
35.25
31.85
42.30
38.20
オーダ報国3号型
4球ダイナミック 弱電界級 57-56-47B-12F 1級
2級
57.00
51.30
60.60
54.50
73.00
65.70

ナショナル4D-1型
5球マグネチック 微電界級 58-57-26B-12A-12F 1級
2級
39.10
35.00
41.55
37.40
50.10
45.10

アリアJ-55型
5球ダイナミック 微電界級 58-24B-24B-2A5-80 1級
2級
81.50
73.35
86.60
77.90
104.30
83.90

ビクター5R-15型
5球電池式スーパー
ダイナミック
極微電界級 167-167-167-30-169 1級
2級
51.35
46.20
54.70
49.20
66.25
59.60
オーダ報国4号型
5球ダイナミック 微電界級 58-57-56-47B-12F 1級
2級
62.65
56.40
66.75
60.00
80.85
72.75

ナショナル5D-1型
5球ダイナミック 微電界級 58-58-57-47B-12F 1級
2級
63.35
57.00
67.45
60.70
81.55
73.40

注1.本表に掲げた自粛価格は代用した真空管の差額を差し引いたもので公定価格をもって販売するものとする。
注2.本表以外の受信機にして協定価格のあるものは協定価格をもって販売し、協定価格なきものは9.18停止価格をもって販売するものとする

日本放送協会報第351号 1940年12月13日、聯合電機商報1941年3月号より

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参考文献

(1) 『日本放送協会報』第351号 (日本放送協会 1940年)
(2) 『聯合電機商報』1941年3月号 (聯合電機商会 1941年)
(3) 『高岡卸商報 昭和15年1月1日』 (高岡正義商店 1940年)

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